2021/12/20 16:07
「陶芸家ではなく、デザイナーになりたかったんです」
幼い頃からイタリアの高級自動車「ランボルギーニ・カウンタック」に強い憧れを抱いていた井口春治(いぐちはるじ)さんは、工業高校のデザイン科に進み、卒業後はグラフィックデザインを学ぶため沖縄県立芸術大学を目指しました。
なかなか思うような結果が出ず、4年間の浪人生活を送ることになった春治さん。その間に足を運んだ陶芸家 大嶺實清(おおみねじっせい)氏の個展で心を打たれたことがキッカケとなって、後々陶芸家の道へ進むことになりました。
「ランボルギーニ・カウンタックをこの世に生み出したイタリアという国を見てみたい」という想いから、春治さんは芸術大学を卒業した後に1年間イタリアのフィレンツェへ。語学学校へ通いながら各地のミュージアムを訪れ、芸術に触れながら感性を磨きました。
「ランボルギーニの本場で、ほとんど実物に出会うことは出来なかったんですけど(笑)滞在中は多くの刺激を受けました」
帰国後は5年間大嶺實清氏に師事。陶芸を学び、2012年に「井口工房」を立ち上げました。春治さんが「ろくろ」を、土を型にはめて成形する「型物」を奥様の悠以(ゆい)さんが担当します。
結婚12年目の井口ご夫妻。取材中、仲が良さそうなお二人にそう伝えると「チームですから」と悠以さん。
神奈川県出身の悠以さんは、会社勤務を経て沖縄に。
「新聞社で経理を担当していました。18歳の頃に初めて旅行で沖縄に来たのですが、それ以降は年に1回は訪れるほど気に入ってしまって。旅行中は時間がたくさんあるので、バスやレンタル自転車で那覇から読谷村まで行ってみたり、海で泳いだり。器にも興味があったので、購入するためにやちむんの里まで足を運んだりしていました。」
ある時、北窯の松田米司(まつだよねし)氏に声をかけてもらい、沖縄に移住することを決意。「母の影響で器は子供の頃から好きでしたが、陶芸は体験教室ぐらいで、本格的に働くことになるとは思っていませんでした」と悠以さん。1年ほど修行した後に春治さんと共に独立をしました。
沖縄の焼き物「やちむん」は、ぽってりとした厚みと土感を感じられるものが一般的ですが、井口さんが手がける器はシンプルで薄づくり。手に持ってみると見た目よりも軽く、驚く人も多いのだとか。
「盛り付ける料理を引き立ててくれる器をつくるように心がけています。例えばこの8寸皿は、沖縄の定番料理チャンプルーからパスタまで幅広く使っていただけるように作りました」
パスタも、オイルベースのシンプルなものからトマトソース(赤系)、ジェノベーゼ(緑系)、カルボナーラ(白系)まで幅広く使えそう。盛り付ける料理を選ばない万能な器は食器棚の奥で出番を待つことなく、日々の食卓で大活躍してくれること間違いありません。
プレートやマカイ(お茶碗・どんぶり)、豆皿、フリーカップ、マグカップ、鉢、お箸置き、シーサー、花器など現在約80アイテムを展開する井口工房。暮らしに溶け込む器は、デザイン違いで何枚も揃えたくなってしまいそう。
毎週土曜日は、13〜17時まで工房での販売もされているので、食卓づくり、器選びに迷った時は、ぜひ井口工房の器をチェックしてみてください。
井口工房
住所:沖縄県読谷村字古堅93番地372
Photo &text:舘幸子