2020/10/05 15:17
石垣島から飛行機(またはフェリー)で行くことのできる与那国島(よなぐにじま)は、日本最西端に位置する島。断崖絶壁に囲まれたこの島は手つかずの自然が多く残されており、八重山諸島の中でも独特の雰囲気が流れています。そんな島の名物は、島の至るところに自生するクバ(ビロウ)の葉で巻かれた泡盛。
トゲもなく扱いやすいクバは、昔から工芸品や生活に必要な道具を作るのに欠かせない植物で、また神行事にも使われてきました。
与那国島の民具職人「よなは民具」の與那覇 有羽(よなは ゆうう)さんは「クバを知らない人たちにも魅力を知ってほしい」という思いから、民具を作る傍らで島の内外でワークショップやトークショーなどの活動を展開しています。
誰に対しても壁を作ることなく、常に穏やかで自然体な與那覇さん。
彼の人柄に惹かれ、与那国島やクバに興味を持つ人も少なくありません。
與那覇さんが手がけるのは、クバ笠や手さげカゴ、ほうき、うちわ、ウブル(水汲み)など。これらは島では昔から、普通に暮らしている人たちが自分たちの手で作り、使ってきたそうで「僕の祖父も、まわりの人たちも当たり前のように作っていたので、作り方は誰に習ったわけではなく、見て自然と覚えました。
便利な時代になって物が増えましたが、島の知恵と文化が詰まった民具を失くしてしまうのは惜しいと思いました。
古典的な形から変化しても、与那国島を感じられる民具を作り続けたいと思っています」とクバで民具を作り続ける理由を話します。
もともとクバの民具作りは天候不順で農家の畑仕事ができなくなった時にする作業だったそうで、周りからは最初「雨が降った時にやる仕事だよ。
本業にするなんて絶対にうまくいかない。生活できないよ」と反対されたそうです。
「でも生きていけていますね(笑)」と與那覇さんは言います。
民具作りに使用するのは、自分で育てたクバの葉。
水道のなかった時代、井戸から水をくみ上げるのに欠かせなかったウブルは、今は伝統行事ハーリーで船が転覆しないよう中から水をかき出す時に使われているそうです。
扇形のうちわは軽くてあおぎやすいだけでなく、表面積が広いのでたくさんの風を送ることができます。
また、持ち手部分やヘリ(縁)は背中をかく時にも使えるという優れもの。
よなは民具の道具には不思議な力が宿っているようで、手に取ると自然の素材が気持ち良く、温もりが感じられて優しい気持ちになる気がします。店頭で見かけた際には、ぜひ手に取ってみてください。
Text&Photo:舘幸子